05.19.06:23
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11.30.14:38
IF~若しかしたら、起こりえたかもしれない過去~
※これは、あくまでも仮想小説です
登場人物も、悠夏以外は架空の人物です
あと、かなり暗いです。救いも、見る人によっては無いかもしれません
そして、これが本来の悠夏の本質でした
以上を踏まえて、それでもな方だけ覗いて下さい
ご意見・苦情は、謹んでお受け致します
『ねぇ、悠夏?もしも僕が……』
それは、何時か起こるかもしれない。
『馬鹿な事を仰らないでっ!』
それが、起こる事を恐れているのかもしれない。
それが、銀誓館学園に在籍する学生と言う名の能力者が避けては通れないものだとしても……。
「悠夏!」
学園の廊下を歩いている時、不意に後ろから自分の名を呼ぶ声がした。
「はい。何でしょう?」
それが、同じ能力者でクラスメイトでもある女生徒の声だと判断した悠夏が、振り向きつつ首を傾げる。
「大変よ!妖獣退治に行った……」
青ざめ、唇を震わせるクラスメイトが告げた言葉に、悠夏は弾かれるように廊下を走り出した。
夕日に染まり、人気も疎らな廊下に、悠夏の足音が響く。
かなりの距離を走っているのに、心が、身体が外の寒さとは違う冷たさで冷えていく。
彼女は、一心不乱にある場所を目指していた。
その勢いに、事情を知らない一般生徒や教師でさえも、声をかける事もなく無言で道を譲る。
其れほどまでに、悠夏の表情は必死だった。
その脳裏に、鳴り響く鼓動と呼吸音に混じって、以前交わした会話が蘇る。
『ねぇ、悠夏。今度の依頼が無事に終わったら、僕と久しぶりにデートしない?』
珍しく、以前から行きたいと言っていたテーマパークに誘ってくれた。
『帰りには、君が好きなスイーツも食べよう。勿論、僕はホットコーヒーだけど』
彼は、甘い物は得意ではなかったから、カフェではいつも顰め面をしていた。
『……クリスマスプレゼント、楽しみにしておいて?』
照れ臭そうに少しそっぽを向いて言われて、舞い上がるほど喜んだ。
なのに。それなのに……。
「四月朔日、先輩……っ」
妖獣退治を終えて戻って来た能力者の1人が、走ってきた悠夏に気づいて声をかける。
此処は、正門前―――
ほんの数時間前に、彼を、彼らを見送った場所。
「済みませんでしたっ……!」
満身創痍な能力者が頭を下げる。
―――何故?
「四月朔日……済まん」
利き腕に重傷を負った能力者が目を伏せる。
―――ねぇ、何故?
「私達が……私達を庇ったばっかりに……っ!」
比較的、軽傷な能力者がその場に泣き崩れる。
―――何故、貴方は此処に居ないの……?
「嘘、で御座いましょう……?悪い冗談は、止めて下さいませ」
今は、もう11月ですのよ?と、笑おうとした悠夏。
勿論、嘘ではない事など彼女が一番良く知っている。
「だって……だって今年のクリスマスにデートの約束をしたんですのよ?クリスマスイルミネーションとパレードの綺麗なテーマパークに遊びに行って、帰りにカフェで甘いものを食べて、そして……そして……」
そううわ言の様に呟く悠夏を、帰って来た能力者達が悲痛な面持ちで見守る。
「ク、クリスマスプレゼントを、楽しみにしてろって……わたくし、本当に、楽しみにしていたんですのよ……?それなのに……それなのに……っ」
呟きを落としてその場で泣き崩れる悠夏。
大きな声を上げるでなく、静かに泣き続ける彼女に、能力者達はかける言葉が見つからなかった。
―――その後、
学園を辞めた悠夏の姿を見た者はなく、ただ真新しい墓前に、カミツレと勿忘草の花が手向けられていたとか……―――
END
※カミツレ:『苦難の中の力』・勿忘草:『私を忘れないで』『真実の愛』
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